20110117

本の記録 / 失敗の本質(後半)

p.297 それ(「統帥綱領」のように高級官僚の行動を細かく規定したものなど)が聖典化する過程で、視野の狭小化、想像力の貧困化、思考の硬直化という病理現象が進行し、ひいては戦略の進化を阻害し、戦略オプションの幅と深みを著しく制約することにつながった

p.317 (米軍の指揮官交替システム)組織を活性化させるには、各自に精一杯仕事をさせることが重要であり、有能な少数の者にできるだけ多くの仕事を与えるのがよいと考えた結果である。しかし、人間は疲れるから、いつまでも同じ仕事を与えるのはまずい。その人間の能力の最良の部分を活用することが大切である。キング元師は、こう考えて特定の担当者のほかは、作戦部員を前線の要員と一年前後で次々と交代させた。これによって、優秀な部員を選抜すると共に、たえず前線の緊張感が導入され、作戦策定に特定の個人のしみがつくこともなかったといわれている。

p.325 個人による統合は、一面、融通無碍な行動を許容するが、多面、原理・原則を書いた組織運営を助長し、計画的・体系的な統合を不可能にしてしまう結果に陥りやすい

p.326 精神主義のもつもう一つの問題点は、自己の戦力を過大評価することである。

p.326 失敗した先方、戦術、戦略を分析し、その改善策を探求し、それを組織のほかの部分へも伝播していくということは驚くほど実行されなかった。これは物事を科学的、客観的に見るという基本姿勢が決定的にかけていたことを意味する。また、組織学習にとって不可欠な情報の共有システムも欠如していた。

p.328 どんな計画にも理論がなければならない。理念と理想に基づかないプランや作戦は、助成のヒステリー声と同じく、多少の空気振動以外には、具体的な効果を与えることはできない。

p.332 組織が長期的に環境に適応していくためには、自己の行動をたえず変化する現実に照らして修正し、さらに進んで、学習する主体としての自己自体を作り変えていくという自己革新的ないし自己超越的な行動を含んだ「ダブル・ループ学習」が不可欠である。

p.335 個人責任の不明確さは、評価をあいまいにし、評価のあいまいさは、組織の学習を阻害し、論理よりも声の大きなものの突出を許容した。

p.358 日本軍と米軍の戦略・組織特性比較
分類
項目
日本軍
米軍
戦略
1.目的
不明確
明確
2.戦略志向
短期決戦
長期決戦
3.戦略策定
帰納的(インクリメンタル)
演繹的(グランド・デザイン)
4.戦略オプション
狭い(統合戦略の欠如)
広い
5.技術体系
一点豪華主義
標準化
組織
6.構造
集団主義・人的ネットワークプロセス
構造主義・システム
7.統合
属人的統合(人間関係)
システムによる統合(タスクフォース)
8.学習
シングル・ループ
ダブル・ループ
9.評価
動機・プロセス
結果

p.344 組織の学習とは、外部環境の生み出す機会や脅威に適合するように、組織がその資源を蓄積・展開することである。そのためには、まず組織はその戦略的使命(ストラテジー・ミッション)を定義しなければならない。(中略)第二には、組織は、そのようなデザインに基づいて必要な資源を蓄積し、それを運用するヒトを練磨しなければならない。そして第三に、組織はそのようにして蓄積した資源を彼の弱みを突きわが優位に立てるような形で展開することが要請される。

p.366 年功序列型の組織では、人的つながりができやすく、またリーダーの過去の成功体験が継続的に組織の上部構造に蓄積されていくので、価値の伝承はとりたてて努力をしなくても日常化されやすいのである。このようなリーダーシップの積み上げによって、戦略・戦術のパラダイムは、組織の成員に共有された行動規範、即ち組織文化にまで高められる。組織の文化は、とりたてて目をひくまでもない、些細な日常の人々の相互作用の積み重ねによって形成されることが多いのである。

p.370 組織文化は、共有された行動形式であるから、組織学習と密接な関係がある。それは、成員に共有されるに至った行動との結びつきが強い知識といってもよいだろう。組織文化は、①価値、②英雄、③リーダーシップ、④組織管理システム、⑤儀式などの一貫性を持った相互作用のなかから形成される。

p.372 軍事組織とカトリック教会は、その価値の反復・伝承のために、最も頻繁に儀式を行う組織である。儀式とは、組織内の日常生活のなかでプログラム化された行事である。

p.391 戦略的志向は日々のオープンな議論や体験のなかで蓄積されるものである。戦略・戦術マインドの日常化を通じて初めて戦略性が身につくのである。

p.395 日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった、ということであった


  

20110111

本の記録 / 失敗の本質(前半)

よく、マキャベリや司馬遼太郎の戦いの本を読む。
経営に大きく関係する。または、自分が過去に携わったリーダーという立場を反省しながら。


「失敗の本質 戸部良一 鎌田伸一 野中郁次郎ほか 中公文庫」


p37 (ノモンハン事件)作戦目的があいまいであり、中央と現地のコミュニケーションが有効に機能しなかった。情報に関しても、その受容や解釈に独善性が見られ、戦闘では過度に精神主義が誇張された。

p68 情報機関の欠陥と過度の精神主義により、敵を知らず、己を知らず、大敵を侮っていたのである。(中略)意見が対立すると、常に積極的を主張する幕僚が向こう意気荒く慎重論を押し切り、上司もこれを許したことが、失敗の大きな原因であった。

p97 先頭は錯誤の連続であり、より少なく誤りをおかしたほうにより好ましい帰結(アウトカム)をもたらすといわれる。(中略)相手がどのような行動に出るか、それに対してこちらが対応した行動がどのような帰結を双方にもたらすかを、確実に予測することはできないのである。

p139 本来的に、第一線からの積み重ねの反復を通じて個々の戦闘の経験が戦略・戦術の策定に帰納的に反映されるシステムが生まれていれば、環境変化への果敢な対応策が遂行されるはずであった。

p141 作戦計画の決定過程に焦点をあて、人間関係を過度に重視する情緒主義や強烈な個人を許容するシステム

p169 目的の単一化とそれに対する兵力の集中は作戦の基本であり、反対に目的が複数あり、そのため兵力が分散されるような状況はそれ自体で敗戦の条件になる。目的と手段は正しく適合していなければならない。

p221 ①聡明な独創的イニシアチブが欠けていたこと
②命令または戦則に反した行動をたびたびとったこと
③故郷の成功の報告を再三報じたこと (レイテ海戦の失敗)

p268 いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし作戦目的が存在しなければならない。目的のないあいまいな作戦は、必ず失敗する。大規模組織を明確な方向性を失ったまま指揮し、行動させることになるからである。

p274 作戦目的の多義性(二重の目的)、不明確性を生む最大の要因は、個々の作戦を有機的に結合し、戦争全体をできるだけ有利なうちに終結させるグランド・デザインが欠如いていたことにある

p275 グランド・ストラテジーとは「一国(または一連の国家群)のあらゆる資源を、ある戦争のための政治目的 ―基本的政策の規定するゴール― の達成に向かって調整し、かつ指向することである。(リデルハート 『戦略論』)

p.284 空気が支配する場所では、あらゆる議論は最後には空気によって決定される。

p.287 米海兵隊が水陸両用作戦のコンセプトを展開するプロセスは、演繹・帰納の反復による愚直なまでの科学的方法の追求であった。

p.291 本来、戦術の失敗は戦闘で補うことはできず、戦略の失敗は戦術で補うことはできない。とすれば、状況に合致した最適の戦略オプションのなかから選択することが最も重要な課題になるはずである。

p.293 戦略は進化すべきものである。進化のためには、さまざまな異変(バリエーション)が意識的に発生され、そのなかから有効な変異のみが生き残る形で淘汰が行われて、それが保持されるという進化のサイクルが機能していなければならない。

20110103

本の記録 / 経営者

レストランで働いていたころ、経営者の方に本を読むきっかけを与えてもらいました。

経営者のビジネス書を読むたびに、リスクを背負いながらも「新しい価値観」を生み出すことに感服するとともに、私もそうありたいと強く思います。


商いの道  伊藤雅俊  PHP

p13 「お客さんは来ないもの」「取引したくてもお取引先は簡単に応じてくれないもの」「銀行は貸していただけないもの」、そのようなないない尽くしから、商いというものは出発するものだよ、

p15 忘れてはならないのは、お客様からの信用が小さいうちはまだしも、大きくなったときです。そのときほど、一旦、信用を失ってしまうと、瓦礫のように崩れてしまう危険性があるのです。

p26 ひがんだり、すねたりする人は、大成できないと、私は思っています。

p44 「農民は連帯感の中に生きる」「商人は孤独を生きがいにしなければならぬ」

p55 会社の信条・綱領、さらに細かい規則を作ったならば、強固なまでにそれを守らなければならないと私は考えています。定めた以上は、どんな状況でも。「まァ、そう堅いことを言わずに、少しくらいいいじゃないか」と妥協せずに、筋を通すことが大切だと思うのです。

p70 土地はありません。建物も借り物です。自慢じゃありませんが、本社ビルもいまだに借りていません。(中略)しかし、土地を持たないイトーヨーカドーには、日本の銀行は大きな融資をしてくれませんでした。ならば、アメリカで資金調達をしようと思って門をたたいたのがゴールドマンサックス証券でした。

p73 「商人が漢字や難しいことばでものを考えるようになると現場から遠くなっている。」というのが私の持論です。

p83 実はお客様には「見えているお客さま」と「見えていないお客さま」の2種類のお客さまがいらっしゃるのです。「見えていないお客さま」とは、お店に実際に来てくださらないお客さまのことです。そこから分かるように、現場の声は「見えているお客さま」だけの声ということになります。商売の難しいところは、「見えているお客さま」に満足していただくだけではなく、「見えていないお客ささま」のことも想定しなければならない点です。その方たちが、店に足を運んでくださり、喜んで買っていただけるような品物を提供しなければならないのです。そのためには現場の声だけを頼りに品揃えを行えばいいというわけでもないのです。

p85 三人称は商人の姿勢ではありません。

p93 成長を考えるな、生存を考えよ

p105 商売の原点 ①しつけ、②報告(コミュニケーション、スピーディーな対応)、③お客様あっての商売、④お取引を大切にする姿勢、⑤教育・指導・育成、⑥社会に貢献していく具体的行動、⑦明確な経営理念、⑧創意工夫・研究・努力、⑨謙虚な姿勢、⑩時代に敏感に反応していく姿勢

p116 「一商人として(相馬愛蔵著)」 開店に際して、相馬夫婦は、ズブの素人が商いに手を染めることの危うさを自らに言い聞かせる目的もあって。「五ヶ条の銘」を作ったそうです。
   一、営業が相当目鼻のつくまで衣服は新調せぬこと
   二、食事は主人も店員も女中たちも同じものを摂ること
   三、将来どのようなことがあっても、米相場や株には手を出さぬこと
   四、原料の仕入れは現金取引のこと
   五、最初の三年間は、親子三人の生活費を月五十円と定めて、これを別途収入に仰ぐこと




20110102

本の記録 / 広告コピーはこうやって書くんだ!読本

広告コピーはこうやって書くんだ!読本 谷山雅計  宣伝会議


p18 けれど、それをつくったタランティーノ監督は、「なんかカッコいいぞ」「なんかすごいぞ」と思いながら撮影したわけではありませんよねp。(中略)受け手は一生、「なんかいいよね」「なんかステキよね」と言い続けます。「作り手」は、「なぜいいのか。これこれこうだからじゃないか」と考え続けます。

P37 ほかの人の気持ちを分かってあげるのと同じように、昔の自分の気持ちを覚えておくことで、本当にたくさんの気持ちを自分のものにすることができます。人間って、今の自分がかわいいから、今の自分を中心に考えて、昔の自分を忘れようとしたり、否定したりしがちです。でも、「あの時に自分はこう思った」という気持ちは、いまの自分にはない大切な視点なんです。

P47 「広告はふつうの人の知性を期待してもいいが、ふつうの人の意欲を期待してはいけない」(中略)いまの時代の広告の受け手って、じつは広告慣れしてきているので、それなりに高度な“知的お遊び”も、理解してついてきてくれます。

P57 「自分のペンの力で、今ある状況を美しく描こう」と考え出すと、ちょっと方向がズレてきます。むしろ考えてほしいのは、「自分のペンの力で、今ある状況をなんとかかえてみせよう」ということ。コピーの第一の目的は、「描写」ではなく「解決」なのです。

P67 要は、コピーを書いたときに「本当にこう思っている人はいるのだろうか」と、しっかり考えることができるかどうか、です。このウソをきちんと見抜けないと、人を動かせないコピーをバンバン書いてしまうことになります。

P77 まず書くときは、論理や意味で書いて、そのあとを自分自身で「生理的にどう感じるか」とチェックする。

P102 もとから大阪の人たちが心の中でお国自慢のようにおもっていたことで、スキさえあれば「言いたいな、言いたいな」と考えていた意見です。

P109 コピーを書こうとするそれぞれの商品に対しても、必ず誰かが言いたくなるような意見があるはずです。それをみつけて、うまく受け手に言いたいことを言わせてあげられるような表現をつくる。

P129 いい広告というのは、一見、ネガティブアプローチのように見えても、結果としては、商品や企業がもっているところを、ポジティブに助長しています。

P154 正論を口にしようとすると、人間はどうしても「自分はただしいことをしているんだ」と思いこんで、妙に居丈高になってしまいがちです。つい、教え諭したり、訓示を垂れたり、説教しようとしたりしてしまいます。しかし、いくらその中身が正しいことでも、上からものを言うような姿勢では、聞いた人の気持ちは動かないし、そもそも反発を食らうでしょう。(中略)正論を表現するときこそ、サービス精神が必要です。

P167 いい企画をつくれる能力がないうちに、体裁のいい企画書を書こうとすると、ウソをつくようになってしまいます。「CMのこの部分では、商品の先進性を表現しました・・」などと、実際には考えてもないことをさも考えたかのように書いてみたり、取りつくろったりしてしまいかねない。

P186 受け手のあなたが「あ、そういえばそうですね」と答えてくれたとしたら、それが「コピー」だと思うんです。(中略)ちょっと表現は難しいけれども、「そういえばそうだね=コピー」は、「知っているのだけれども、ふだんは意識の下に眠っているもの」だと思います。誰でも知っている「そりゃそうだ」でも、誰も知らない「そんなのわかんない」でもコピーにはならない。そうではなくて、「知っているのに意識の下に眠っているもの」を言語化することいよってよみがえらせてあげる。