20101228

本の記録 / 峠(下)


峠(下)  司馬遼太郎  新潮文庫

p34 「西洋がこんにち日本を凌いだというのは、ひとつはこの卓子でございます。卓子をかこみ、人と人が腹蔵なく話し合うという習慣のために物事が進み、今日に至ったと愚考いたしまする」

p91 そういうことよりも小林虎三郎のそういう態度である。仇敵の中といってもいい継之助から窮迫中に物を恵まれてもいささかの卑しみもみせず、「これはお礼である」といって赤心を(おもて)にあらわしつつ鋭く継之助の欠陥を突いてきた。
「どうだ、この卑しさのなさは」
 継之助の感動はそこであるらしい。人間がえらい、というのはこういうことだ、と継之助は目がさめたように思い、茫然とするほどに感動してしまったらしい。

p195 非常の場合の藩論は、少々一方を弾圧しようとも一本であるべきだというのが継之助の方針であった。

p208 「戦さというものは、だらだらすすんで勝ったためしがない。敵に対して、疾風怒濤の勢いで寄せかかるというのが、勝ち戦のかたちというものだ」

p240 軍中、敵味方の強弱を論じたり、本営の作戦を批評したりすることは軍隊活動に百害あって一利なし

p301 人間、成敗(せいばい)(成功不成功)の計算をかさねつづけてついに行きづまったとき、残された唯一の道として美へ昇華させなければいけない。「美ヲ()ス」それが人間が神に迫り得る道である、と継之助は思っている。

p340 継之助はみずからそれをひきうけた。小藩の大将というのは、田舎芝居の座頭(ざがしら)のようにどういう役でもやってのけねばならなかった。

p374 西郷のいうのは、臆病さから知恵がうまれるものであり、人並みに恐怖せぬ者からは智謀は湧き出ぬという。

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